円形脱毛症
円形脱毛症は頭髪などに円形の脱毛斑をきたす病気です。原因は未だにはっきりとしていません。各年齢層に起こり、男女差はほとんどありません。通常はウイルスや細菌と戦う仕事をしているリンパ球という免疫細胞が、自分の毛包を攻撃してしまう事で起こります。多くの場合は自然に治癒しますが稀に難治化し、頭髪だけでなく、まつげや眉毛、その他全身の体毛を侵すこともあります。難治化した場合は膠原病や甲状腺疾患などの全身性疾患の検索が必要な場合もあります。症状によって以下のように分類されています。
円形脱毛症の症状の分類
単発型
いわゆる10円はげが頭部に出現するタイプで、放置しておいても3ヵ月から半年で自然に治ります。ただし稀に重症なタイプに移行する事があります。ステロイドの外用や局所注射・エキシマライトなどの紫外線療法などで治療すると早く治ります。
多発型
10円はげが頭部などに2個以上出現するタイプで単発型に比べると治療に難渋する事が多いようです。特に25%以上の脱毛範囲が持続する場合は難治です。治療はステロイドの外用や局所注射、エキシマライトなどの紫外線療法のほか、局所免疫療法を行うことがあります。また、概ね50%以上の脱毛範囲がある場合はJAK阻害薬(オルミエント®、リットフーロ®)という飲み薬が使用できます。
急速進行型
急激に全頭の毛髪あるいは全身の毛が抜けてしまうタイプで短期間に全頭の毛が抜けてしまいます。このタイプは全て抜けてしまったあと、しばらくすると自然に発毛して治癒する事が多いのですが、全ての毛が一旦抜けてしまうので患者さんの精神的ショックは相当です。そのため少しでも抜け毛を減らすために、短期間ステロイドの内服を行う治療を選択する事が多いです。
蛇行型(Ophiasis型)
側頭部から後頭部の生え際に脱毛が拡がるタイプで慢性に経過し、あらゆる治療に抵抗します。ステロイドの局所注射と局所免疫療法が有効な場合があります。また、概ね50%以上の脱毛範囲がある場合はJAK阻害薬(オルミエント®、リットフーロ®)という飲み薬が使用できます。
全頭型・汎発型
全頭の毛が抜けている状態が持続します。ひどい場合には眉毛・まつげあるいは全身の毛が抜けてしまいます。ステロイドの内服は効果的ですが、中止すると再発してしまう事が多くあまりお勧めできる治療法ではありません。一般的には局所免疫療法の適応です。ステロイドの局所注射を併用する事もあります。JAK阻害薬(オルミエント®、リットフーロ®)という飲み薬を使用することが多くなりました。
円形脱毛症の治療法
ステロイド外用療法
もっとも一般的な治療法で軽症な場合の第1選択の治療法です。
ステロイド内服療法
ステロイドには免疫抑制作用があります。毛包の周囲に浸潤しているリンパ球の機能を抑える作用によって発毛を促します。外用療法より有効ですがステロイドはリンパ球のみならず人の殆ど全ての細胞の機能も抑えてしまうため全身的な副作用があります。急速進行型のような患者様に対して短期間の使用に限られます。
JAK阻害薬内服療法
重症の円形脱毛症の患者様に使用する飲み薬で、オルミエント®とリットフーロ®という2剤が使用可能です。毛包の周囲に浸潤しているリンパ球と毛包上皮細胞で起こる炎症の悪循環を抑える作用によって発毛を促します。ステロイド内服と比較すると副作用が少ないので、比較的長期に使用できます。現状になってからの罹病期間が6か月以上で脱毛斑が概ね50%以上、オルミエントは15歳以上、リットフーロは12歳以上の患者さんに適応があります。円形脱毛症診療ガイドライン2024年版には推奨度Aとして記載されました。
ステロイド局所注射療法
脱毛部に直接ステロイドを注射する方法です。非常に効果的な治療法ですが痛みを伴うので比較的範囲の狭い円形脱毛症の患者さんがよい適応といえるでしょう。汎発型の場合、眉毛のみに打つことは可能です。
局所免疫療法(SADBE)療法
自然界には存在しない合成物質であるSADBE(squalic acid dibutylester)やDPCP(diphencyprone)はほとんど全ての人がかぶれる物質です。このかぶれを利用して治療に役立てるという方法です。局所的なかぶれという副作用はありますが、全身的な副作用はほとんどないので安心して継続できる治療法です。ただし保険適応が無く、自費診療になるのが難点です。
- 初診料
- 5,500円
- 再診料
- 1,650円
- 施術料
- 1,100円
- 全て税込み価格です。
紫外線療法
脱毛班に紫外線を照射する事によってリンパ球や抗原提示細胞(Langerhans 細胞)の機能を抑制する方法です。当院では脱毛班にエキシマライト:ExSys305(タイプ100)という最新鋭の紫外線照射装置を導入していますが、この治療だけで完治させるのは難しいので、その他の治療法の補助療法として利用しています。
抗アレルギー剤の内服
アトピー性皮膚炎が合併している場合は他の治療法に加えて抗アレルギー剤を内服していただく場合があります。
その他
液体窒素療法、セファランチンやグリチロンといった旧来の内服療法は効果が不十分なので当院ではあまり行っていません。
中等症以上のアトピー性皮膚炎を合併している患者様にはデュピクセント®という注射薬が有効なことがあります。
男性型脱毛症(AGA)
AGAは、思春期過ぎに遺伝的背景を持つ男性の前頭部から頭頂部で起こります。症状は進行性で、一度症状が出始めると、その後は徐々に薄毛が進行していきます。AGAの人は全国で1,260万人いると言われています。
当院では男性型脱毛症に対して内服薬での治療を行っています。フィナステリド:プロペシア®とテュタステリド:サガーロ®はAGAの原因となる男性ホルモンのうちテストステロンの代謝産物でヘアサイクルを短くしてしまうデヒドロテストステロンの産生を阻害する薬剤です。外用薬としてはミノキシジル5%外用薬が効果的です。まれにかぶれてしまう場合はミノキシジル内服薬での加療を行う場合がありますが、血圧を下げる作用があるため、使用には細心の注意が必要です。
診察後、適用と診断した方には院内で処方致します。また安価なジェネリック薬も扱っています。但し、自費診療となりますのでご了承ください。
詳しくは外来診察時に医師にご相談ください。
AGAの治療費(税込み)
- 初診料
- 5,500円
- 再診料
- 3,300円
- 1年経過後の再診料
- 1,650円
薬剤費(税込み)
- ザガーロ® 30日分
- 11,000円
- デュタステリド:サガーロ®のジェネリック 30日分
- 7,700円
- プロペシア®(28日分)
- 8,250円
- フィナステリド内服薬:プロペシア®のジェネリック 28日分
- 6,160円
- ミノキシジル内服薬(2.5㎎)30日分
- 8,800円
- ミノキシジル5%外用薬(ボズレーMX5)1本
- 6,930円
女性の薄毛:女性型脱毛症
(FAGA:Female AGA FPHL:Female Pattern Hair Loss)
男性に限らず女性でも加齢とともに髪の毛のボリュームが減っていきます。男性のような前頭部から頭頂部に目立つような薄毛の分布ではなく、前頭~頭頂~側側のボリュームが全体的に減っていく形をとります。後頭部は比較的保たれるのが特徴です。初期には分け目が目立つようになった、あるいは髪のコシが弱くなったと自覚されることが多く、徐々に進行していきます。ところが、女性の場合、貧血、甲状腺疾患、鉄・亜鉛といったミネラル不足、過度のダイエットなどの内的要因から脱毛していることが少なくありません。このような状態を合併している場合には原因を排除することで、かなり改善させることができます。FAGA(FPHL)自体の治療薬としてはミノキシジル外用薬が第一選択ですが、効果が不十分な場合は、スピロノラクトン、ミノキシジル内服が選択肢となりますが、いずれも血圧を下げるなどの副作用があるため、使用には細心の注意が必要です。時に間違ったヘアケアなどによって、薄毛をさらに悪化させていることもあり、ちょっとしたアドバイスで毛髪量が改善する場合もあります。
女性の薄毛の治療費(税込み)
- 初診料
- 5,500円
- 再診料
- 1,650円
薬剤費(税込み)
- スピロノラクトン2.5mg 30日分
- 2,200円
- ミノキシジル(2.5mg)30日分
- 8,800円(半割して1.25mgから始めることもあります)
- ミノキシジル1%外用薬(ボズレーMX1 Women) 1本
- 6,930円
- 診療は原田医師、入澤医師の外来となります。
抜毛症(トリコチロマニア)
抜毛症は正常な毛を引き抜いてしまうことによって脱毛斑を形成する疾患です。個人差があり頭髪だけでなく眉毛やまつ毛も対象となる場合があります。小学生から思春期の女子に多く、多くは自然に治癒していきますが、成人にまで持ち越すと難治になります。慢性化した場合には強迫症状を伴っていることが少なくありません。強迫症状というのはその考え、行動が不合理でばかばかしいとわかっているのに、それを制御することができないことを指します。また、抜毛行動をやめさせるための認知行動療法が基本です。不安、ADHDなどの精神的な基礎疾患がある場合にはメンタルヘルス科との併診を必要とする場合があります。当院は抜毛症の治療で有名なパークサイド日比谷クリニックと連携しております。皮膚科的なアプローチとしてはかゆみやニキビが引き金になることが多いため、これらの治療を、また、ある程度改善してきたときに毛髪量を増やす治療を行っております。どうしても抜毛行動が制御できない場合は近くの美容室とタイアップして抜毛抑制ウィッグをご紹介することもあります。また、万一抜毛行動が抑制されたのにもかかわらず、毛髪量の改善が見られない場合には植毛クリニックをご紹介いたします。
誰にもわかってもらえないと諦める前にぜひ一度ご相談ください。
※保険診療。
※診療は入澤医師の外来となります。
トピックス(円形脱毛症)
円形脱毛症の治療薬として2022年6月にオルミエント®と2023年9月にリットフーロ®という飲み薬が認可されました。いずれもJAK阻害薬という分子標的薬ですが、円形脱毛症に関与するリンパ球と毛包上皮細胞との間で起こる炎症の悪循環を制御する薬剤です。重症の多発型、蛇行型、全頭型、汎発型に対して適応があります。そのほかに中等症以上のアトピー性皮膚炎を合併している患者様にはデュピクセントという注射薬が使用可能です。薬剤費は高額ですがお勧めの治療薬です。
オルミエント®
細胞内のヤヌスキナーゼ(JAK)のうちJAK1とJAK2というたんぱく質を阻害します。これによりサイトカインの働きが抑えられることで免疫細胞による毛根への攻撃が抑制され、円形脱毛症に効果を発揮します。以前より慢性関節リウマチ、アトピー性皮膚炎に対しての効能は認められていていましたが、2022年6月に円形脱毛症に対しての効能が追加承認されました。
脱毛範囲が概ね50%以上で、罹病期間が6か月程度ある重症の円形脱毛症に使用されます。15歳以上の患者様が適応です。効果は9か月後に全頭の脱毛範囲が20%以下になる確率が約34%と報告されています。日本人には効果が高く出る傾向にあるようです。ただし、副作用はステロイド全身投与ほどではないにしても、ある程度注意が必要で、結核やウイルス性肝炎などの感染症がないことを詳細に検査してから開始する必要があることと、定期的な検査が必須です。したがって、副作用の観点から65歳以上の患者様にはお勧めしていません。また、臨床試験のデータから1年で投与を中止すると再発が多いことが知られていますので、少なくとも2~3年の投与期間が必要と考えています。JAK阻害薬は胎児に影響がでるといわれていますので、内服中は避妊をする必要があります。
リットフーロ®
細胞内のヤヌスキナーゼ(JAK)のうちJAK3とTECというたんぱく質を阻害します。これによりサイトカインの働きが抑えられることで免疫細胞による毛根への攻撃が抑制され、円形脱毛症に効果を発揮します。以前より慢性関節リウマチ、アトピー性皮膚炎に対しての効能は認められていていましたが、2023年9月に円形脱毛症に対しての効能が承認されました。
脱毛範囲が概ね50%以上で、罹病期間が6か月程度ある重症の円形脱毛症に使用されるのはオルミエントと同じですが、12歳以上の患者様が適応となったことは朗報です。効果は6か月後に全頭の脱毛範囲が20%以下になる確率が約23%、12か月後に43%と報告されています。オルミエントとの直接比較をしたデータはありませんが、効果は同程度と感じています。副作用はオルミエント®同様、結核やウイルス性肝炎などの感染症がないことを詳細に検査してから開始する必要があることと、定期的な検査が必須です。したがって、副作用の観点から65歳以上の患者様にはお勧めしていません。恐らくオルミエント®と同様、少なくとも2~3年の投与期間が必要と考えています。JAK阻害薬は胎児に影響がでるといわれていますので、内服中は避妊をする必要があります。
デュピクセント®
デュピクセント®はアトピー性皮膚炎、結節性痒疹、慢性蕁麻疹などに対して効能が認められた注射薬です。
皮膚内部に起きている炎症反応を抑えることによって、かゆみや皮疹などの皮膚症状を改善します。2週間に1回皮下注射を行いますが、慣れてきたら自己注射も可能です。我々は中等症以上の円形脱毛症を伴うアトピー性皮膚炎の患者様にデュピクセントを使用することでアトピー性皮膚炎の症状のみならず、円形脱毛症に対しても有効であることを報告しました1)。
デュピクセント®は「IL-4」と「IL-13」という白血球から放出される炎症物質(サイトカイン)の働きを直接抑えることで、皮膚の炎症反応(Th2リンパ球による炎症)を抑制する新しいタイプの注射薬です。皮膚内部に起きている炎症反応を抑えることによって、アトピー性皮膚炎のかゆみや皮疹などを改善します。2週間に1回皮下注射を行いますが、慣れてきたら自己注射も可能です。中等症以上の円形脱毛症を伴うアトピー性皮膚炎の患者様にデュピクセントを使用することでアトピー性皮膚炎の症状のみならず、円形脱毛症に対しても有効であることが報告されています。副作用が少ないので長期にわたって使用できるメリットがあります。2023年9月より生後6か月以上小児に適応拡大になりました。
1)Harada K, Irisawa R, Ito T, Uchiyama M, Tsuboi R.:The effectiveness of dupilumab in patients with alopecia areata who have atopic dermatitis: a case series of seven patients, Br J Dermatol. 2020 Aug;183(2):396-397.
医療費について(付加給付制度と高額療養費制度)
デュピクセント®、リットフーロ®、オルミエント®の薬剤費はとても高額です。
お勤めの会社によっては付加給付制度といって独自の自己負担上限額を設定している場合があります。
ご自身が加入している健康保険組合にご相談ください。また、年収(770万円以下)によっては、国が定める高額療養費制度の利用が可能です。